取材=2019年11月 ◎ 文・写真=下宮慎平

 英和株式会社は、大阪市西区に本社を構える計測制御と産業機械の総合商社だ。1947年に創業者である阿部英三郎氏が、個人経営で始めた航海計器・発動機部品の販売をおこなう「英和商店」がその始まりだ。
 現在は「提案型セールスエンジニア企業」として、計測制御、産業機械を中心とした様々な製品、工業資材の販売、輸出入代理、古物売買、施工、修理に至るまで、業務の幅は広い。
 現在同社では『アペルザクラウド』を活用したメール配信を営業施策のなかに取り入れ、その効果を感じていると言う。今回、アペルザでは、それら施策を指揮する同社取締役副社長兼営業本部長の阿部吉典氏、営業本部マネージャーの迫大三郎氏の二人に話を聞いた。

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―現在、アペルザを活用したメール配信と営業活動の連携などに取り組まれています。取り組みのきっかけや背景などを教えてください。

阿部:弊社では以前よりお客様情報のデータ化を行っていました。しかしデータ化の目的も、名刺ファイルを外に持ち出さなくてもよくなる、誰がどこの企業のどの部署に出入りしているかが分かるなど、その程度でした。実態としてはデータ化をしているだけで、そのデータを有効活用するところまで至っていませんでした。そこに我々がかねてから感じていた「営業の課題感」と、アペルザさんからいただいたご提案が、ちょうどマッチしたのです。

取締役副社長 兼 営業本部長 阿部吉典氏

:私も、これまで弊社のお客様情報を、もっと有効活用できないかとは以前から考えていました。また、それをメール配信に活用するというのも、おそらく有効だろうとは思っていましたが、お客様に受け入れられるか、そして社内に受け入れられるか、半信半疑な部分もあり、なかなか実行に踏み切れていませんでした。そんな時、アペルザさんからご提案をいただき「効果はやってみなきゃわからない、まずはやってみよう」と決心したのです。

営業本部 マネージャー 迫大三郎氏

―「営業の課題感」とはどのようなものだったのでしょうか。

阿部:ひとつは弊社、英和に対してお客様が持っている「イメージを広げること」です。弊社のお客様の多くは、温度計、圧力計、流量計など、いわゆる計装分野でのお取引が中心で、会社として70年以上の歴史もありますから、よくも悪くも「英和は○○の会社」というイメージが染み付いています。実はこれは、弊社の営業マンも一緒で、ベテラン営業マンであるほど固定観念が染み付いてしまっているのです。

 もうひとつが「クロスセリング」です。弊社の場合、売上の大半はルートセールスによる既存のお客様からのものです。業績拡大のためには「クロスセリング」つまり、既存のお客様に対して新しい商材、これまで案内していなかった商材を販売していく必要があります。

 現在、弊社で展開しているメルマガ(メールマガジン)では、定期的に新商材を案内しています。これらは一義的には営業マンの役割かもしれませんが、対面での案内、マンパワーには限界があります。現在、アペルザのシステムに登録されているお客様情報は数万件あります。ここに一斉にメールを送れるということは、大量の営業マンがいるのと同じぐらいの効果があると思っています。メールを用いることで、「IoT」や「AI」などの新商材を、お客様へ定期的且つ一斉に案内していくことができます。これによって、弊社に対してお客様が抱くイメージを変えていけると考えています。

―これまでの施策を通して、効果も実感されていると聞いています。進めていくなかで苦労された点や、効果最大化のために工夫された点などはありますでしょうか。

:アペルザを活用したメルマガも、ついに20回を超えました。振り返れば、やはり取り組みが浸透するまでには時間がかかりました。

 最初の半年間は社内の営業から、クレームとまでは言いませんが、反対意見が出てくることもありました。もちろん、社内向けの事前共有はしていましたが、周知が足りなかった部分もあるかもしれません。弊社の場合、メールの配信対象は、過去に営業がお客様先で交換してきた名刺情報を元にしています。自分が普段、営業窓口をしている会社に対して、自分ではない人からメールが送られるということで、抵抗感を感じる営業もいたようです。

工夫という意味では、地道な”啓蒙”活動を続けてきました。私だけでなく、阿部も社内会議や営業会議で、定期的に「メルマガの有効活用」を伝えてきましたし、ときには阿部自ら営業同行し「活用方法」を実際の営業活動のなかで伝えてきました。これがすごく大きかったと感じます。その甲斐あって、半年経ったあたりから、「施策のおかげでこんな良いことがあった」という営業の声を耳にするようになってきました。

―どのようにメール施策を営業活動につなげていくのか、悩まれている企業様は多いように感じます。具体的にはどのようなことを伝えてきたのでしょうか。

阿部:簡単に言えば「メールそのものを営業ツールとして使え」ということです。メーカーのカタログをお客様先へ持っていくような感覚で、メールを印刷して持っていくように伝えました。メールの内容は言うなれば、「英和の取り組みのダイジェスト版」です。A4で印刷すると、長いものでも2-3枚です。それをパラパラとめくっていただくだけで、いま英和が注力していることが伝わります。

メールを実際に読んでくれているかどうかは、誤解を恐れず言えば、どちらでもいいのです。メールに掲載されている製品や、メールそれ自体が、お客様との会話のきっかけになればいい。また、これは意外な効果でしたが、その印刷したものをお客様先に置いてくることも重要でした。そうすることで、お客様が自らそれを回覧してくれる。メールがお客様先の社内を一人歩きするのです。実際、メールを送ったことがないはずの担当者から連絡があり、話を聞くと「社内でメールマガジンが回覧されてくる」ということもありました。このコメントを聞いた時には、メールによる情報発信、情報提供の効果を感じました。

:社内向けの情報展開の仕方も工夫しています。メール配信に合わせて、営業が内容を確認し、印刷できるよう、社内の掲示板でメールの原稿を回覧しています。そして、配信後3日目には、メール受信者のうち、カタログダウンロードしたお客様など、つまり掲載されている商材に何らかの興味を示したお客様のリストを回覧しています。営業は、そのリストをみて自分の担当するお客様がいれば、コンタクトを取ります。もちろん「あなたメール見ましたね」と伝えたら、気持ち悪がられてしまいますので(笑)、「先日お送りしたメール見ていただけましたか」とさりげなく伝えるよう指示しています。

阿部:手当り次第で営業するよりも、多少なりとも興味を示しているお客様から優先的に営業した方が、効率・確率は上がります。本音を言えば、私も最初はメール配信の効果は半信半疑でした。しかし、実際にやってみて、見てくれているお客様は確実にいらっしゃいますし、特に「IoT」など話題性のある商材は、訪問時にもそれだけでしばらく会話が弾みます。そこから話が広がって、営業マンが継続フォローしていくきっかけにもなる。実際にそれがきっかけで商談、見積りにつながり、受注につながったという事例も聞いています。

――副次的な効果もあったと聞いています。

阿部:はい、ひとつは仕入先への改善提案につながった事例です。私は現在のメール配信の取り組みをお客様先だけでなく、弊社の仕入先メーカーに対してもPRしています。こうした取り組みを話すと、メーカー側から「次の配信でこれを紹介してくれ」など、コンテンツ提供につながるケースもありますし、そこから商談のきっかけになるケースもあるのです。

というのも、仕入先メーカーもまた製造業であり、彼らの工場が弊社の得意先になり得ます。とある仕入先メーカーの社長との面談で、私の持っていったメールのなかで紹介されていた他メーカーの商品が、彼の興味を惹き、工場の生産技術に回してもらえて引き合いにつながったということが実際にありました。このようなメール配信をきっかけにした、仕入先への改善提案の事例が、すでに数件出てきています。

:メールに掲載したことがきっかけで引き合いが増えただけでなく、“ヒット商品化”した事例もあります。これはメール配信によってお客様の認知を獲得できたこともそうですが、メールの配信結果データによって、お客様が「どのような商品に関心があるのか」が可視化されたことが大きいと考えています。

これまでも営業本部の活動のひとつとして、他の営業所でどんなものが売れているかといった市場調査的な情報、各営業所での取り組みや成功事例などを、私から他営業所に共有・紹介するということはしていました。メール配信を活用するようになってからは、メール配信の際にクリックや資料ダウンロードの件数が多かったもの、つまり売れる前の段階で「お客様の関心が高かった商品」がわかるようになりました。

弊社では、金曜日にメールのクリックデータなどを社内展開しています。それは各営業所課長が、翌週月曜日の営業会議で、そうした「お客様の関心が高かった商品」を、営業強化の対象として伝えるためです。後日、営業がお客様先を訪問する際に、それらを積極的に案内するようになりますので、よりお客様側の商品認知も高まります。結果として、お客様からの引き合いが増え、それが売れ筋、成功事例として営業会議のなかで再び話されることで、営業の意識が高まっていくという良いサイクルが回り始めたのです。

阿部:特に「IoT」や「AI」などの新しい商材は、新たな知識が必要です。営業も都度都度キャッチアップしていく必要があるので、つい敬遠されがちです。従来の売れ筋商品を提案し続けるほうが楽ですから、新商材のマインドシェア(認知・想起)はなかなか高まりません。しかし、メール配信を始めたことで、このようなサイクルが生まれ、社内における、新商材に対するマインドシェアを高めることもできました。

加えて、メール配信によって新たな商談のきっかけが生まれるということが、社内にも認知されていくことで、お客様情報のデータ化のメリットも明確になり、登録データ件数も増えました。これもまた、良いサイクルが回っていると感じます。

―組織的な好循環が生まれていますね。ずばりこの成功の秘訣は何だったのでしょうか。

阿部:私はこの一連の取り組みについて、始めて本当に良かったと思っています。ただ、もちろん最初から完璧にできたわけではなく、完全に試行錯誤です。とにかくまずは始めてみて、試行錯誤を続けること。これに尽きると思います。

あとは、それを推進してくれる仲間がいることでしょうか。弊社で言えば、迫です。私自身は営業全体の管掌、責任者ではありますが、アペルザを活用したメール配信の施策など、各種施策における現場の指揮、推進は迫がやってくれています。私自身はどちらかというと、「やるなら最初から完璧なものを作ってやろう」と頑張ってしまうタイプなので(笑)、迫の「まずはやってみよう」の精神にすごく助けられています。

:完璧を求めないことは大事だと思います(笑)。もちろん、お客様とのコミュニケーションなので、クレームが起きないよう文章、内容についてはかなり気を使っていますが、「まずはやってみよう」が大事ですね。

実際の浸透、定着においては本部長(阿部)が自ら、トップダウンで指示をしてくれたことも大きいと思います。私や他の営業本部のメンバーも、その下で推進していくことができました。先程お話したような営業会議での情報発信や、本部長が自ら実践するといったことも重要ですし、チームプレイができたからこそ継続できたんだと思います。

―メール配信の本質は、組織・チーム作りなのかもしれませんね。今後計画されている新しい取り組みなどはありますでしょうか。

:現在、営業本部は私を含む4名のメンバーで、アペルザを活用した各種施策をはじめ、営業活動の側面支援的な、直接の営業活動「以外」の部分を担当しています。全国営業所のサポート、仕入先メーカーとの窓口役など、各自が様々な動きをしています。これまではそれを3名体制でやっていましたが、今期より社内異動で、メンバーが1名増えたので、これまで手薄になっていた部分を、少しずつ手を付けていこうと思っています。

例えば、Webマーケティングをもっと英和全体、トータルで考えなければいけないと思っています。メール配信を始めたことで、自社のホームページの問題点にも気付くことができました。現状はメールの内容と自社のホームページの内容がリンクさせられておらず、メールで紹介した商品をホームページで探しても見つからない、もしくは詳しい情報が見つけられない。

阿部:ホームページの活用という意味では、過去に配信したメールのバックナンバー、これまで20回にわたって続けてきた施策をアーカイブするページは作っていきたいですね。欲を言えば、そこからネット販売、見積り依頼などまでつなげていきたいとも思っています。

自社のホームページは、取引先のためでもありますが、同時に社内のためでもあると考えています。実際、社内の営業マンも、特に若手は英和がどんな商材を扱っているか、ちゃんと把握できていないことがあります。以前は紙の便覧を作っていましたが、改訂にかかる手間やコストの観点から廃止してしまいました。社内の若い営業マンに取り扱い商材を理解させるためにも、ホームページやメールのバックナンバーを活用していきたいと考えています。

:あとは、メールの配信頻度を少し増やす、もしくは数ヶ月に1回は少し趣向を変えた「特集号」的なものを送るなども取り組んでみたいと思っています。これは阿部の話と同様、人材育成的な観点もあります。今はメール配信の内容は、営業本部側で全部考えています。でも、今後は各部の営業マンからボトムアップであげてきてほしいなと思っています。

弊社は営業部制を取っていますが、部によってカルチャーが違うんです。ある営業部ではOJTも兼ねて、お客様へ提案する商材を若手に考えさせていたりしますが、それを部内にとどめる必要はありません。そこで良い提案が出てくるならば、それは積極的にオープンにし、水平展開してくことで、若手が組織全体に貢献することもできます。そのアウトプット先のひとつとして、メルマガを活用してほしいと考えています。

また、今回異動してきたメンバーも若手ですが、やはりセンスがデジタル世代なんだなと感じます。どうしても我々の世代が考えると堅い内容になってしまうので、新しいやり方、違うやり方をどんどん取り入れてみたいと思っています。もしそれでうまくいかなければまた戻せばいいだけなので。

―ありがとうございました。

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